ホテルオークラで靴磨き職人の井上源太郎さんから学んだ仕事観

まだ東京にいたころ、靴をどうしても磨いてほしい人がいたんですよ。その時ぼくは趣味で靴磨きにはまってたんですが、どうしても技術をみてみたかった、話してみたかった大御所靴磨き職人がいたんです。

それが井上源太郎さん。ホテルオークラで小さな靴磨き屋さんをやってるその道うん十年の方。写真を探したのですが、あんまりいいのがない…。「井上源太郎 靴磨き」でググってみてください。

靴磨き職人「井上源太郎」とは?

この方、世界の名だたる方の靴を磨いてきてるんですよね。ハリウッドスターだったろ歴代総理大臣の方々の靴も磨いてきてます。で、技術はあって当たり前なんですけど「どうしてここまで何十年も靴磨きをしてきたのか?どんな思いでやってるのか?」ってのが気になったんですよ。

大物だけにとんでもなくすげービジョンを持ってるに違いない!って思ってました。で、ホテルオークラ行ってきたんです。いやーブルジョワ空間ですな。

ホテルオークラのアーケードの一角に靴磨き職人の井上源太郎さんはいる

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ここのアーケード街の一角にあるんです。お店。一人くらいしか入れない5畳程度の空間。それがまた居心地いいんです。近くに行くと、靴磨き道具の匂いがするんですよね。

お店についてからの井上源太郎さんの第一声

で、お店の前でばったり会ったんですけど第一声がこれ。「あんた靴磨く必要ないよ〜。十分綺麗じゃん。靴磨きの人でしょ?」

と。おお、靴磨き屋なのに靴磨きをしようとしない!すごい。餅は餅屋なので餅を進めて当たり前なのに、まさかの拒否!これには驚きました。靴磨きが必要じゃないからお断り。

井上源太郎さんの職人魂に脱帽

これってできる人なかなかいないですよね。特に靴磨きなんて基本儲かりにくい仕事なんで、ひとりの客すら逃したくないじゃないですか。金のこと考えるならば。でも磨く必要ないと!

これが本当のプロか!と思いました。媚を売らず、必要な人にのみ施述する。素晴らしい。でも、磨いてもらいにきたのでどうにかお願いして1時間後に磨いてもらうようにしました。笑

みんな客を客だと思いすぎなんですよね。断る勇気って必要。ぼくもそれからお願いされても断るようにしてから、仕事に対してのストレスはだいぶなくなりました。お客を選ぶ。必要ない人には必要ないよという。目先の金に飛びつかない。で、1時間ラウンジで読書して戻ったら「はいおいで〜」と。この壁を感じない雰囲気がいい。でもどこかピリッとしてて隙がない。

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 井上源太郎さんに磨かれる革靴

そして台座に座って施述開始。まあ30分程度の時間ですがいろんなことを聞きました。技術はもう見るまでもなくすごかったのでおいておいて、どんな考えでやってるんだろう?と。

なぜ靴磨きを始めたのか?

金がなかったから。家が貧しくて、たまたま軍人の靴磨きを手伝ったらうまいと言われたから始めた。で、お金がもらえたから続けた。それだけ。別に靴磨きが大好きで…とかそういうのは特になかった。ただ、できることがそれだったからやった。

普通の金に困ってない家だったらたぶんやってないし、今の若者で靴磨き職人を目指す人増えてるけど、サラリーマンやってたほうがいいよ。ほんと。

なんで?

最初はお客さんいれば儲かるけど、そんな長く続かないよ。やったことあるならわかるけどけっこう疲れるでしょ?(これガチでやると腕バッキバキになります) 若いうちは体力でどうにかなるけど、歳食ってくるとどうしてもしんどい。しかも磨かないと金にならないから、ずーっとやらないといけないわけ。

で、会社員でもないから福利厚生もないし、収入だって安定しない。お金のことだけ考えたらやってもしょうがないよね。

井上源太郎さんは靴磨きの講師とかやらないんですか?

「ああ、今はウェブでそういうのやってる人もいるよね〜けど俺はそういうのには一切興味がないの。教えることはできるけど、教えたくない。だって職人増えちゃうでしょ?笑 あとは俺は靴磨きが仕事であって教えるのは本職じゃないの。」

などなど、けっこう予想外の言葉ばかりが返ってきました。やっぱり世界にも知られてるレベルの人だから、すげー情熱を持ってキラキラした考えでやってんのかなーと想像してたので、意外と冷めてることにびっくり。

俺は世界一の靴磨き職人になるんだ!みたいな感じなのかな?と思ってたのですが、ただただ淡々と、そう淡々と靴を磨く。できることをとことんやる。それだけ。

とはいえ井上源太郎さんはやはり一流の職人ならではの知識がある

もちろん、靴の銘柄は圧倒的に詳しいし、革のことも詳しいし、誰よりも革靴を研究してるのは見てわかるし、だからころ一眼見ただけで「その靴にはどんな施述すればいいか?」がわかるんだと思う。

ただ、感じたのは今の若者に多い「俺こうなりたいんだ!きらきら〜夢いっぱい〜お花畑〜」みたいなモチベーションではなくって、「できることがこれだからこれを極めるだけだ」みたいな青い炎が見えるんですよね。冷静に腕を磨くことのみを考えてる…みたいな。

魅せ方を意識しない靴磨き職人井上源太郎さんの魅力

今の若者ってさ、腕云々よりも「想い」とか「魅せ方」を重視するじゃん?だから中身に伴わない魅せ方をしてビジネスとして成功させる…みたいなの多いじゃない。ラベルを立派にして…みたいな。

けど、ここまでラベルを意識せずただ技術のみに冷静に注力してる「職人気質」な人ってほぼいないんだよね。ぼく自身、そうじゃなかったからかなり衝撃的だったなー。

実際ホテルオークラという一級な場所にありつつ、店のなかはかなり雑多。むしろ散らかってるくらいの印象だったし、道具も別に綺麗じゃない。服装もワックスつきまくって綺麗とはいえない。

けれど、その手だけは光ってる…みたいな。きったない店なのに、めっちゃうまいみたいな感じ?

本当の靴磨き職人の井上源太郎さんに感銘を受けた

「ああ、これが本当のプロか。職人か。」と切に思ったもんです。想いとか夢とか見た目とかではなく「今できることを懸命にやる。誰よりも突き詰める」と。

井上源太郎さんにあってから、いい意味で仕事に冷静さがでました。「なにがしたいか?よりもなにができるか?」で考えるようになりましたし「ラベルよりも本質」を大事にするようになりました。

なので、このブログも綺麗に見せようとせず、淡々と書く。本音だけを書く。他の仕事も嫌なこと、必要ないことは断る。お客さんだからって持ち上げない。全てある意味「こだわりがなくなった」って感じですね。

「嫌なら帰れ」とも言えるようになりましたし。前よりも淡々とやることをやるようになりました。今、会社員でも事業主でも、やたら夢ばかりを語ってキラキラ魅せるところが多いですが、そんなことよりも大事な部分があるんだよね。それをホテルオークラで井上源太郎さんに靴を磨いてもらってる30分間で気づかせてもらいました。

帰りの足取りは、少し軽かったな〜。

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